40になったら

あと2ヶ月で35歳。

そんな僕に彼は言った。

 

「35歳かぁ。そっからの10年間、あっという間だぞ」

「若い間は感じないかもしれないけど、40になると

 独り身を寂しいと感じることは確実に出てくる。

 話し相手がいないと、やっぱり、な」

 

前者はともかく、後者は何となくわかる気がする。

5年後の自分が今と変わらない狭いアパートの自室で

袋麺を啜っている姿が容易に想像できるから。

そしてそれは、客観的に見ても

とてもうら寂しいものだと思うから。

 

ちなみに。20年後、30年後の自分は、

もはや想像もできない。

誠実と不誠実

人は誰しも、大なり小なり不誠実なもの。

だから嘘をつくこともあるし、

約束を果たせないこともある。

 

いっときの不実を詰っても不毛なだけ。

なぜなら僕だって、大なり小なり

不誠実なところは確かにあるのだから。

 

ただし嘘をついたのが公人であるならば、

それには大いに怒り、呆れてもいいと思う。

とっちゃった

かすめとった。醤油豚肉焼きうどんを。21時。デリカ辺りの商品がどんどん値下げされていくあの現場で。近所のスーパーで。彼が見ている目の前で。

たぶん狙っていたんだろう。あと3秒でも早ければ、あれは彼のものになっていたんだろう。いろいろ物色しているなかで、「これいいな。でもあとちょっと見て回ろう」くらいの気持ちだったんだろう。それで後回しにしちゃったんだろう。でもいいのがなくて、思い出して戻ってきたんだろう。

僕もたぶん、それを反射的に感じた。彼が近づいてきた時に。こちらに向かう体の動きと空気の流れ、彼の視線の先にあったものから。反射的に感じたんだ。だからこれを僕は手に取った。その瞬間、彼の顔がこわばるのを感じた。

その後何度か彼とすれ違ったとき、彼の視線は明らかに僕の手元にあった。お会計は彼が先にした。サッカー台で一緒になった。その時も彼は僕の手元…いやそのときには、僕の横顔だったか。「お前それ、俺が欲しいとわかってて取っただろう」とでも言うかのように。

僕はそれを無視して、赤いカゴから商品を手早く手に取った。そしてさっさと帰った。自転車がびゅんびゅん通る商店街を通り抜けて。その場からそそくさと立ち去ったのだ。